コーチ・カウンセラー・セラピストのみなさんへ
催眠コミュニケーションによるカウンセリング例
催眠コミュニケーションによるカウンセリングの一例をあげてみましょう。
私はもともと教育が専門分野で、
家族療法的な家庭教師の仕事を引き受けることがありました。
この事例は、自殺未遂をした不登校中の女子生徒の学習指導を頼まれて、
初めて会った時のことです。
プライバシー保護のため、一部改変してあります。
生徒は中三の女の子。その子の名前はかおりちゃん。(仮名)
以下は、会話を始めてすぐに「死にたい」と言い始めた
かおりちゃんと私との会話です。
ここではカウンセリングという枠ではなく、
初めて家庭教師の先生として呼ばれきたという枠の中で
関わっています。
完全に初対面です。
カウンセリングという枠を使わずとも、
ここまでやれるといういい例になっていると思うので、
あえてこの例をあげさせていただきます。
指示や命令、説得などを一切使わず、
主に質問だけを使って、
自殺したいと語っていたかおりちゃんが
高校受験をしたいので勉強を見て欲しいという望みを語るように
へと変わるように変化したところに注目してください。
めんたね
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さて。死にたいんだって?
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かおり
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はい。私、いつ死んでもいいって思ってるんです。
っていうか、もう死にたい。
もう、どうでもいいんです。
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めんたね
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ほう!? なんでまた?
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かおり
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母にはもう、うんざりなんです。
生活していてもつまらないし。
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めんたね
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なるほどね。なんか大変そうだね。
で、どんな死に方をしようと思っているの?
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かおり
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へ?
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めんたね
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いや、君、死にたいんでしょ?
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かおり
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はい、そうです。
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めんたね
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死に方にも色々とあるじゃない。
まず、自殺するという方法もあるし、
これは狙ってできるものではないけど、
交通事故で死ぬという方法もあるでしょ。
病気で死ぬ人も多い。
自殺で死ぬにも首吊り、飛び込み、飛び降り、焼身自殺、入水…
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かおり
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はあ……
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めんたね
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死にたいからには一番、理想の死に方ってあると思うんだよね。
死ぬ時には一人で死にたいのか、
誰か大切な人に看取られながら死にたいのか。
遺書は書くのか書かないのか。
遺書を書くならば、誰あてにどんな内容で書くのか。
もし、自殺をするのであれば、
どのような方法を選ぶのがベストなのか。
そして、いつ、どのタイミングで死ぬのか。
今すぐ、この場で死ぬこともできるし、
今日、ぼくが帰った後、死ぬこともできる。
明日、死ぬこともできるし、一か月後に死ぬこともできる。
どうせ、人間、誰でもいずれは必ず死ぬから、
いつ死んでもいいんだけどさ。
あとは死ぬ時期を自分で決めるか、
運命に任せるかの違いだよね。
好みの方を選べばいい。
君の好きな時に好きな形で自由に死ぬのがいいと思うんだよ。
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かおり
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(じっと黙ってこちらの言葉を真剣に聞いている)
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めんたね
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あ、実際に君の自殺に俺が手を貸したら、
それはぼくが犯罪になっちゃう。
「自殺幇助」だっけ?
だから、それはしないけどね。
でも「理想的な死に方」についての相談ぐらいだったら
受けられるよ。
ああ、そういえば、
死ぬ前にやっておかないといけないことはなんなのか。
これも重要だね。
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かおり
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やっておかないといけないこと?
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めんたね
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たとえば、ぼくだったら、
死ぬ前にちょっとこれは他人に見せられない、
なんていう秘密のものを処分したりね。
死ぬ前に会っておきたい人もいるかもしれない。
どうせ死ぬんだから、
全て整ったベストの状態で最高の死を迎えたいところじゃない?
こうやって、死に方をきちんと考えるって、
結局、死ぬ直前までの生き方をきちんと考えることと
同じことだったりするね。
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かおり
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確かにそうですね。
そういえば、私、すぐには死ねないんです。
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めんたね
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あら、なにかやることでも?
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かおり
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自分の持ち物を人に一切触らせたくないんです。
だから、部屋の中にあるものを
全て消し去ってなくしてからじゃないと、死ねないんです。
本とかマンガとかゲームとか。
私のものを人に触らせたくないので。
母とかに勝手に触られるのがとにかくイヤなんです。
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めんたね
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なるほどねー。
じゃあ、それらを捨てる場所を探さないといけないんだ。
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かおり
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捨てても誰かに触られるかもしれないので、
消し去りたいんです。
または、絶対に誰かが触らないような場所に埋めるとか。
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めんたね
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そういう場所の目処はついているの?
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かおり
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それがまだなんです。
それが見つかるまではまだ死ねないんです。
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めんたね
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そうか、それは困ったね……
じゃあ、その方法が見つかるまでは?
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かおり
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当分生きるしかないんです。仕方ないから。
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めんたね
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なるほど、そういうことなのね。
で、俺はどうすればいいのかな?
ぼくに何か協力できることがある?
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かおり
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とりあえず、生きていたくはないですが、
当分、生きていなければならないので、高校は受験します。
だから、勉強を見てください。
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めんたね
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了解。わかった。
じゃあ、これから、どんなスタイルで勉強していこうか?
(以下、学習に関する具体的な話が続く)
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いかがでしょうか?
ここで私はあえて「自殺をやめよう」という正論を語っていません。
それどころか、一見、彼女の自殺に協力するかのように話を進めています。
これはとんでもないことのようにも思えます。
しかし、最終的に、かおりちゃんは生きることを自ら選択し、
高校受験に向けての学習指導を私に依頼しました。
これは、完全に私が「かおりちゃんにとって良い変化だろう」と望んだ通りです。
ちなみに彼女は、その後、高校に合格し、高校、大学と進学しました。
今では立派な女子大生として学生生活を満喫しているそうです。
なぜ、指示や命令、説得を使わずに
このような結果に落ち着いたのでしょうか?
それは、単に伝え方を工夫したからです。
様々な仕掛けを言葉の中に用意しました。
その工夫の仕方こそが無意識コミュニケーションです。
私がかおりちゃんに対して発した言葉には
無意識コミュニケーションの技術が使われています。
一見、何気ないやり取りの中から
相手の無意識に働きかけて変化を引き起こす。
これが無意識コミュニケーションです。
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